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ANTI ANTI GENERATION TOUR 2019

2019/06/06

RADWIMPSの進化と今の音楽シーンの潮流を読み解く5つのキーワード 〜前編〜

こんにちはー!

ラリルレコードの店長でございます!

 

カフェあり、アシストスタッフあり、味噌汁’sあり、グッズあり、とモリモリモリ沢山のラリルレコードですが、なんといっても今回は「ANTI ANTI GENERATION TOUR 2019」です。

そう、アルバム「ANTI ANTI GENERATION」を提げて全国あちこちを巡っていくのです。

だからアルバムの話もさせてください!

 

この作品、好きなところも十人十色かもしれないし、受け取り方もみんな違うんじゃないでしょうか。

なんだかわからないけど、すごい作品な気がするし、奥が深いと思ったんです。

だけどどんなすごいアルバムなのか、奥が深いのはなぜなのか、上手に言葉にできないので店長がリスペクトする音楽ライターの柴さんに解説をお願いしたところ、「ANTI ANTI GENERATION」というアルバムにまつわる肉厚濃厚な記事を書いてくださいました!

これを読んだら、またひと味もふた味も違うアルバムの聴き方・楽しみ方を見つけられるかも…!

前編と後編に分けてお送りしますので、ご覧ください。

 

 


 

ニューアルバム『ANTI ANTI GENERATION』でめざましい変化を遂げたRADWIMPS。この記事は、彼らの今の音楽性を、バンドの辿ってきた足跡という“縦軸”と、同時代の世界の音楽シーンの潮流という“横軸”から解き明かそうという試みです。

 

①「アンサンブル」――音楽集団としてのバンドへ

 

「このアルバムは新しいRADWIMPSの代名詞になる」

 

こんな風に、野田洋次郎は語っていました(『MUSICA』2018年12月号)。では、その“新しい”というのは、どういうことなのか。バンドは何に刺激を受け、どのような変化を遂げてきたのか。それを5つのキーワードから探っていこうと思います。

 

そして、これを読んでいる皆さんにとって、この記事がRADWIMPSを入り口に世界各国のいろんなタイプの音楽にふれるきっかけになったら嬉しいです。

 

というわけで、まず一つ目のキーワードは「アンサンブル」。つまり、サウンドの組み立て方というテーマです。

 

『ANTI ANTI GENERATION』を聴けば、ドラム、ベース、ギターといういわゆるバンドサウンド以外のいろいろな音が鳴っていることに気付くと思います。「NEVER EVER ENDER」にはキラキラとしたシンセフレーズが、「Mountain Top」にはピアノとストリングスが鳴っている。打ち込みのビートも多い。いわゆるJ-ROCKのフィールドで活躍する多くのバンドとは違い、RADWIMPSのサウンドは生バンドの編成で鳴らせる音だけでは成り立っていない。

 

そういう音作りの挑戦が始まったのは、実は、新作よりもずっと前のことです。たとえば「白と黒と4匹のワルツ」(2013年)は、4人が並び連弾のようにピアノを弾いた楽曲でした。その頃のライブから、メンバーがステージで自らの担当楽器以外の楽器を弾くような場面も増えていきました。

 

4人でやれることの集大成を詰め込んだアルバム『×と◯と罪と』(2013年)を経て、2015年に山口智史(Dr)の無期限休養が発表されてからは、サポートドラマーとして森瑞希が参加し、ライブでは刄田綴色も迎えたツインドラム編成となっている。さらに映画『君の名は。』(2016年)では、主題歌だけでなく劇中音楽全てをRADWIMPSとして手掛けました。そうした経験もあって、バンド編成にとらわれない野田洋次郎の発想力、それを受けた桑原彰(Gt)と武田祐介(B)のマルチプレイヤーとしての才覚が、より開花していきます。

 

アルバム『人間開花』(2017年)を経て、バンドは「音楽集団」として大きく成長を果たしていきました。デビューから『アルトコロニーの定理』(2008)の頃は野田洋次郎1人が音楽的なアイディアを縦横無尽に膨らませ3人がそれに必死でついていくという関係性だったのが、プレイヤーとしてもミュージシャンとしても信頼し合う仲間へと変わっていきました。

 

野田洋次郎はその実感を、こんな風に語っています。

 

「音楽集団としてどんどん変化して、進化していける気がする。ストリングスを入れたオーケストラのアレンジもするし、全く生ドラムが入ってない曲も作るし、それをヒップホップと呼ばれてもべつにいいですよっていう。俺らはバンドという音楽集団だから」(『Rolling Stone Japan vol.05』)

 

 

ちなみに、それぞれのメンバーがマルチプレイヤーとしての才覚を持つ「音楽集団」型のバンドというのは、海外では珍しい存在ではありません。

 

たとえばRed Hot Chili PeppersやRadiohead、Blur、Coldplayといった90年代から活躍するトップレベルのロックバンドたちは、みなメンバーが多種多様な楽器を弾きこなすスキルとクリエイティビティの持ち主。たとえばRadioheadのジョニー・グリーンウッドのように、バンドのメンバーとしてだけでなく、自ら映画音楽のサウンドトラックも手掛ける天才肌のミュージシャンもいます。

 

最新作『Father of the Bride』が絶賛を集めているVampire Weekendや、Ariana GrandeやChildish Ganbinoと並んでいまや世界中で最も注目を集める野外フェスとなった「コーチェラ・フェスティバル」でヘッドライナーをつとめたサイケデリック・ロック・バンドのTame Impalaなど、今のロックシーンを牽引する海外のバンドたちも、やはりメンバーが複数の楽器を手掛ける「音楽集団」型のバンドがほとんど。

 

〈Vampire Weekend – Harmony Hall〉

 

 

〈Tame Impala – Borderline – Live at Coachella 2019〉

 

詳しくは次でも語りますが、それはきっと、音楽のあり方が多様化し、ビートミュージックやヒップホップなど、トラックメイカー/プロデューサーが手掛ける楽曲がポップシーンの主流になりつつある現在において、バンドが刺激的な音楽を作り出すためのひとつの必然になっているのかもしれない、と思います。

 

 

②「ビート」――低域で起こりつつあるイノベーション

 

 

『ANTI ANTI GENERATION』の大きな特徴は、いわゆるJ-ROCKの主流となっているバンドサウンドだけでなく、ヒップホップやビートミュージックの要素を大きく取り入れていること。単に打ち込みのリズムを使っているということだけでなく、それが曲の構造の土台になっているということなのです。

 

たとえば「カタルシスト」は、BPM90台のスローなテンポで始まり途中で倍速のドラムンベースが重なっていくナンバーです。ファットなシンセベース、グルーヴに対して前で乗っかっていくラップが曲を引っ張り、ラストの大サビではギターロックの興奮に着地する。このユニークな曲調について、野田洋次郎はこんな風に言っています。

 

「バンドの肉体的なサウンドと、ビートが強調されたものを、いま俺らなりに融合して面白いものを作るとしたらこうだっていう道筋が見えたんだと思います」(『Rolling Stone Japan vol.05』)

 

では、なぜRADWIMPSにとってビートが強調されたサウンドメイキングに取り組む必然があったのか。その背景には、今、世界中で起こっているローエンド(低域)の革新があるのです。ポップミュージックの最前線の人達が、それまでほとんど使われなかった低い音域を使い始めた。たとえば、周波数で言うと30hz以下くらいの「ドゥーン」と鳴るようなベースが曲の骨組みを支えたりしている。生ドラムやエレキベースでは出せない、シンセの「サブベース」と呼ばれる音色が主にそれを担っています。

 

「やっぱり日本のロックシーンってどうしてもミッドハイ(中高域の音)が強いよねっていうのがあって。それが日本人の心地よいところなんだろうし、俺らとしてはいいスピーカーじゃないと(重低音)は聴こえないだろって削ってた部分でもあったんだけど、そこをもうちょっと大事にしたいと思ったんです」(『MUSICA』2018年12月号)

 

野田洋次郎はこんな風にも語っています。実際、ブルブルと震える振動のような重低音をわかりやすく鳴らすにはサブウーハーを備えたスピーカーシステムがないと難しかったりもするので、そういうものがあまり普及していない日本のロックやポップスの音作りではなおざりにされてきた部分ではあるのです。でも、聴こえないといっても、実のところ体感ではその違いは感じ取れる。さらに、ここ最近はテクノロジーの進化もあって、ヘッドホンやイヤホンを使えばその低域の音をはっきりと感じることができる。

 

そういうこともあって、海外のポップミュージックのシーンで進んできた低域のサウンドメイキングの変革に真っ向から取り組んだのが『ANTI ANTI GENERATION』というアルバムなのです。ちなみに、ちょうど同じタイミングでリリースされたASIAN KUNG-FU GENERATIONの新作『ホームタウン』もそういう問題意識のもと作られたアルバムでした。

 

では、たとえば、海外のどんなアーティストが低域の革新を起こしているのか。その端緒となった一つは、James Blakeが2011年にリリースしたデビューアルバム『James Blake』でしょう。彼の鳴らした深遠な音世界と繊細な詩情は世界中のミュージシャンに衝撃を与えます。

 

〈James Blake – The Wilhelm Scream〉

 

たとえば、今のヒップホップシーンを代表するアーティストの一人であるドレイクやケンドリック・ラマーも、それぞれの楽曲で気持ちいい低域のリズムとベースラインを鳴らしています。

 

〈Drake – God’s Plan〉

 

〈Kendrick Lamar, SZA – All The Stars〉

 

 

また、デビューアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』が世界中で大反響を巻き起こしている17歳の女性アーティスト、ビリー・アイリッシュも低域が聴きどころになっているサウンドメイキングが特徴です。

 

〈Billie Eilish – bad guy〉

 

 

2010年代後半の海外のポップミュージックのシーンにおいては、こうしたアーティストたちがどんどん先鋭的なサウンドを開拓しているのです。

 

日本のロックバンドとして、そういう潮流にどう向き合うか。『ANTI ANTI GENERATION』にはそんな挑戦を見出すこともできると思います。

 

 

 

柴那典/しば・とものり

 

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにてダイノジ・大谷ノブ彦との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

ブログ「日々の音色とことば」http://shiba710.hateblo.jp/ Twitter:@shiba710