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ANTI ANTI GENERATION TOUR 2019

2019/06/08

RADWIMPSの進化と今の音楽シーンの潮流を読み解く5つのキーワード 〜後編〜

こんにちはー!

ラリルレコードの店長でございます!

 

音楽ライター・柴さんによる「ANTI ANTI GENERATION」のお話、いかがですか?!

1枚のアルバムからこんなに広い世界が見えてくるなんておもしろくないですか?!

 

先日の前編に続いて後編をお届けします。

「ANTI ANTI GENERATION」では、RADWIMPSはたくさんのアーティストと共演してますが、そんなコラボにまつわるお話。

そして、ラップという切り口から見える「ANTI ANTI GENERATION」などなど。

読み終えたらもう一度アルバムの再生ボタンを押したくなっちゃいますね!

 


 

③フィーチャリング ――コラボから生まれる化学反応

『ANTI ANTI GENERATION』の特徴の一つは、旺盛なコラボにあるとも言えるでしょう。

「泣き出しそうだよ feat あいみょん」は、優しい曲調のジャズ・バラードに乗せて、野田洋次郎とあいみょんが掛け合いのように歌う曲。「IKIJIBIKI feat. Taka」は、ONE OK ROCKのTakaをフィーチャーした疾走感あふれるロックナンバー。「TIE TONGUE feat. Miyachi, Tabu Zombie」は、ルードなグルーヴに乗せてTabu Zombieの自由奔放なトランペットとMiyachiのタイトなラップが映えるジャズ・ヒップホップ。そしてアルバムのラストを飾る「正解(18FES ver.)」は、NHKの番組『18祭』のために書き下ろした楽曲で、実際に番組の現場で1000人の18歳の人たちと歌ったバージョンが収録されています。

RADWIMPSがこうして他者とコラボすることは、実は活動の初期から7枚目のアルバム『×と○と罪と』にかけての期間には、ほとんどありませんでした。

2015年は、山口智史の無期限休養、野田洋次郎の主演映画『トイレのピエタ』での俳優デビュー、初の海外ツアーなど、バンドにとって大きな変化が続いた一年でした。その年の11月から開催された対バンツアー「10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPSの胎盤」で、Mr.Children、ONE OK ROCK、スピッツ、LOVE PSYCHEDELICO、ハナレグミ、いきものがかり、米津玄師、クリープハイプ、ゲスの極み乙女。、きのこ帝国、plentyといった面々との対バンが実現。バンドが旺盛に他者とリンクしようとし始めたのは、このあたりからです。

この頃から、Aimer「蝶々結び」やさユり「フラレガイガール」など、野田洋次郎による楽曲提供やプロデュースも増えていきました。さらに2017年にはインストゥルメンタル・ジャズ・バンドSOIL & “PIMP” SESSIONSと野田洋次郎によるコラボレーションシングル「ユメマカセ」がリリースされています。

〈SOIL&”PIMP”SESSIONS feat.Yojiro Noda /「ユメマカセ」〉

ちなみに、海外では2010年代に入ってジャズとヒップホップやネオソルのクロスオーバーがどんどん進んでいます。その代表格とされるアーティストが、ピアニストのRobert Glasperや、ロサンゼルスで活躍するサックス・プレイヤーのKamasi Washingtonなどの面々。

特に2012年にリリースされたRobert Glasper Experimentのアルバム『Black Radio』とその続編『Black Radio 2』は、多数のヴォーカリストやラッパーを客演に迎え、グラミー賞を受賞するなど世界的な評価を集めた作品です。

〈Robert Glasper Experiment – Calls ft. Jill Scott〉

「TIE TONGUE feat. Miyachi, Tabu Zombie」にあるジャズとヒップホップのテイストは、そうした潮流をRADWIMPSなりに解釈して生まれた一曲と言えるかもしれません。

そして、もうひとつ大事なことは、ここに至るまでの道程でRADWIMPSというバンドが揺るぎないオリジナリティを持っている、ということ。そこに確信があるからこそ、ジャンルにとらわれない幅広いフィーチャリングやコラボレーションによって新たな扉を開くことができたのだと思います。

 

④ラップ ――溶けつつある歌との境界線

いまや、歌とラップの境界線は溶けつつある。それが今の世界的な音楽シーンで起こっていることの一つです。フリースタイルでMCバトルをするようなタイプのいわゆる典型的なヒップホップMCだけでなく、様々なアーティストがラップという手法を当たり前に取り入れるようになっている。ヒップホップのスタイルが、ポップミュージック全体に大きく広がっている。アルバム『ANTI ANTI GENERATION』で見られるのも、そういう時代性を踏まえたラップへのアプローチと言えるでしょう。

たとえば「洗脳 (Anti Anti Mix)」や「PAPARAZZI ~* この物語はフィクションです~」は、そうした方向性を大きく打ち出したナンバーです。ただ、RADWIMPSにとってヒップホップ的なアプローチは以前からも見られました。たとえば『絶体絶命』(2011年)収録の「G行為」、『人間開花』(2016年)収録の「AADAAKOODAA」もそうした一曲です。

また、野田洋次郎のソロプロジェクトillionではアルバム『P.Y.L』(2016年)収録の「Hilight feat. 5lack」で、ラッパー5lackとの共演が実現。これらの経験の延長線上にアルバム『ANTI ANTI GENERATION』の方向性があると言えます。

2010年代は、アメリカでヒップホップのアートフォームが大きく進化した時代でもありました。端緒を開いたのは世界中で大絶賛を集めたKanye Westの2010年のアルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』。彼が拠点を置くシカゴのシーンからはChance the Rapperも登場し、ゴスペルやソウルと融合した壮大なハーモニーを聴かせるヒップホップの潮流が生まれます。

〈Chance the Rapper ft. 2 Chainz & Lil Wayne – No Problem〉

一方で、南部アトランタからはトラップ・ミュージックと呼ばれる新たなスタイルが勃興。MigosやFutureなど、低音のビートに三連符のフロウを活かしたラップを聴かせるビートミュージックのあり方が一気にメインストリームとなります。

〈Migos – Bad and Boujee ft Lil Uzi Vert〉

一方で、ドラムや生楽器のグルーヴを活かしたラップを聴かせるアーティストも登場します。その代表格が、ライブでは自らドラムを叩きながらラップするというAnderson .Paak。西海岸ヒップホップシーンで最も影響力を持つDr.Dreのアルバム『Compton』(2015年)にフィーチャーされ注目を集めた彼は、前回紹介したロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンと同じく、ヒップホップとジャズを越境するセンスの持ち主。彼やThundercat、さらには、テクノやファンクも様々なレイヤーで混じり合う「LAビート」シーンを牽引するFlying Lotusの存在感もとても大きいと言えるでしょう。

〈Anderson .Paak – Come Down〉

〈Flying Lotus – More (feat. Anderson .Paak)〉

いま、世界では90年代に一世を風靡したミクスチャーロックのスタイルとは全く別の、新たな音楽のミクスチャーがどんどん生まれている。RADWIMPSは、その現在進行形の動きに日本のロックバンドとして向き合っている、と言えるでしょう。

 

⑤ロック ――バンドが一番かっこいいものであり続けるために

海外で巻き起こりつつある新たな音楽のミクスチャー、サウンドのイノベーションに真っ向から向き合う形で新作『ANTI ANTI GENERATION』を作り上げたRADWIMPS。それでも彼らは「ロックバンドである」ということに、大きなプライドとモチベーションを持った存在だと思います。だからこそ、バンドでできること、バンドで鳴らせる音をどう拡張するかに取り組んできた。野田洋次郎はこんな風にも言っています。

「僕はいまだにロックバンドがかっこいいと正直思っているので、一番かっこいいところに居続けるために、どういう音楽を鳴らそうかなという意識がありますね」(『Rolling Stone Japan vol.05』)

そして、その背景には彼らが歩んできたキャリア、そして力強く自由度の高いパフォーマンスを成し得てきたステージの上の5人の存在があるのでしょう。

「うちらは十何年かけて一つの音を作り続けてきていて、ひとりじゃなく4人で今までずっと作ってきたから。今は5人で音を鳴らしていて、後ろを向いたらドラマーが2人(森瑞希、刄田綴色)いて、横を向いたらこの2人がいるなかで、音を出したときの無敵感みたいなものは、ステージに乗って同列に比べられたとしても負ける気がしないんですよね」(『Rolling Stone Japan vol.05』)

ロックバンドが一番かっこいいところにいるために、変わり続けなければいけない。一つのスタイルを守り抜いてずっと同じことを続けるかっこよさもあるかもしれないけれど、RADWIMPSは最初からジャンルにとらわれず変わり続けるタイプのバンドだった。その延長線上に、これまでに解説してきた新作『ANTI ANTI GENERATION』での数々のチャレンジがあったと言えるでしょう。

ちなみに、2010年代後半は、ヒップホップやエレクトロニック・ミュージックがポップミュージックの主流となった時代。世界的にもロックバンドには逆風が吹いている状況が続いてきました。

そんな中で、やはり「変わり続ける」ことを選んだバンドが、たとえばイギリスのThe 1975や、アメリカのVampire Weekendといった面々。それまでのロックバンドのフォーミュラを突き崩し、なおかつバンドでしか鳴らせないような感性を音に封じ込めることで、大きな評価を集めたアーティストです。

〈The 1975 – Give Yourself A Try〉

〈Vampire Weekend – This Life〉

日本においても、風向きはどんどん変わってきています。たとえばKing Gnuのように、これまでのJ-ROCKのフォーミュラとは違う形の美学を打ち出しつつアンダーグラウンドからオーバーグラウンドへと駆け上がるタイプのバンド、CHAIのようにユニークなメッセージと音楽性が海外で高い評価を集める若い世代のバンドも現れてきています。

「5人がガッと向かっているあの空気感が、やっぱりバンドなんだなって。そのフィジカル感と熱量は、今のところバンドが一番なんじゃないかなって思うんですよね」(『Rolling Stone Japan vol.05』)

野田洋次郎は、こんなふうにも言っています。

目まぐるしく変化を続けるグローバルな音楽シーンの潮流の中で「日本のロックバンドのかっこよさ」を更新しようとしているRADWIMPSや、数々のバンドたち。そんな風に、音楽を巡る世界中の動きを意識しつつ彼らの音楽を聴いてみると、いろんな楽しみ方ができると思うのです。

 

 

 

柴那典/しば・とものり

 

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにてダイノジ・大谷ノブ彦との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

ブログ「日々の音色とことば」http://shiba710.hateblo.jp/ Twitter:@shiba710